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『一度でも道を踏み外すとなかなか元には戻れない』という漫画のセリフを読みながら、まったくそのとおりだと思った。学校の授業から落ちこぼれて、教室に居づらくなってからは堕落していく一方だった。まぁ、漫画のほうは悪役で不良の少女が仲間の裏切りにより自分の罪に気がついた時にはもう手遅れだったというストーリーだった。ナイフで心臓を刺されて死ぬところである。助かるかな、いや、助からないかも、同じ不良女子に裏切られたし、悪役だしと屋上で壁に背をあずけてペラペラと頁をめくる。学校の屋上はたいてい施錠されているのが普通なのかもしれないけれど、この学校はなぜか施錠されていない。鍵が壊れているわけじゃないのだろうが、いつも開いているから、落ちこぼれの私にとってはかっこうのサボリスポットだ。
「ちーっす」
ギギギと建て付けの悪い扉を開きながら、女の子が入ってくる。んーと片手を上げて挨拶を返す。彼女よりも漫画のほうが気になるし、彼女もそんなこと気にしないだろう。
「隣、座るよ」
いちいち確認してくる律儀さに私は苦笑いしながらいいよと答えると、彼女が隣に座る肩がぶつかりそうなほどに近い距離だったからシャンプーの香りがした。まぁ、そんなことでドキドキしたりしないけれど、女の子同士だし。
「何、読んでるの? 小説?」
「私が小説なんて読むと思った? 漫画だよ。漫画。私が小説なんて読んでたら明日、あたりには雪でも降るよ」
季節は夏、真っ盛りで雪なんて振るわけないからどれほどの奇跡かわかってもらいたい。あんな文字の挿し絵抜きなんて読めるわけない、漫画がいい。
「雪は降ってほしいかな、ここらって冬でも雪とか降らないし」
「降ったらどうする? 雪合戦とかやっちゃう?」
「二人で?」
「んー、ここは無難に雪だるまにしておこうか」
だねーと彼女が答える。本気で言ってたわけじゃないんだ。私はいいと思うけどな、二人で雪合戦。五分くらいしたら飽きそうだけれど、雪だるまも作ってもすぐに溶けてしまいそうだしとペラペラと漫画をめくる、あ、不良女子が主人公の男の子に助けられて、プリプリ怒りながらもなんとなくまんざらでもない雰囲気になってる。むぅー。
「ねぇ、卓球しない?」
と、唐突に彼女がそんなことを言った。もしかしたら本当に明日、雪が降るかもしれない。やる気のなさでは私と同じくらいなのにな、まぁ、暇だし
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