911人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、吹き飛ばされた樹は────。
「────っ、ぁ!!」
──未だに衝撃が治まることなく、細身の体躯が宙を舞っていた。
高層ビルの中心へと衝突し、突き抜けて遥か後方へと飛ばされる。中央付近を吹き飛ばされた建造物は轟音を鳴り響かせながら地上へと倒れていき、瓦礫は幾つもの【霰】(あられ)となって降り注ぐ。
────死傷者約千人強。
一撃……たったの一撃で多くの人間の命が失われていた。
急降下するように地面へと衝突した樹は勢いそのままに、衝撃に引きずられながら大地を滑る。
ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!
瓦礫との摩擦の影響で衣類は激しく破れ、素肌が露出しながらも樹は止まらない。跳梁(ちょうりょう)しつつ、彼女はボンヤリと思考していた。
(……今の攻撃で何千人が死んだのかな……私が戦おうが逃げようが、結局人は死んでいく。だったら私が戦う意味は……? )
それは答えの無い自問自答。
無差別に力を振るう【魔王】の存在は最早『災害』と同じ。故に、人の手で防ぐことは不可能。
御郷 樹は器用な人間ではない。誰かを守りながら敵を倒すことなど到底出来ないのだから。
(……私に残された最後の手段ってなんだろう?)
視界に映る景色が次々と変わる中、樹はふと周りの状況を眺める。
硝煙立ち上る街中、瓦礫に埋もれて助けを求める人々の悲痛な叫び声。神に許しを請う為、天へと祈りを捧げる人。
そのどれもが『助けて』と繰り返していた。
先程の樹が呟いた『……ごめん』という言葉は彼らへと向けた謝罪であり、無力な自分を戒める為の言葉でもあった。
最初のコメントを投稿しよう!