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──薄れゆく意識の中、血溜を吐きながら修二は呟く。
「……マケタク、ナ……イ。コノ……セカイ、ニ、シハイ……サレタクナイ。オレ……ハ、オレ…………ハ」
ドクン、ドクン、と。止まりかけの心臓が鼓動を早める。肌に張り付く鱗が徐々に侵食を広げていたから。
耳をつんざく大音響が思考を掻き乱す。命の灯火が消えようとする刹那、修二はすがるようにして【生】への執着を叫んでいた。
「────コノセカイニ【復讐】ヲ」
暗黒が修二の身体から噴き出していた。
張り裂けんばかりの絶叫と共に、【神原 修二】は【ヒト】としての全てを失う。
──今、【魔王】は覚醒する。
「──ガァアアアアァァァァアアァアァアァァアァァァァァァァァアアアアアアアァァアァァアァアァアァアァアアアア!!」
煌めく黒い閃光。大空を覆い尽くす暗黒の霧。大地を揺るがす咆哮。大気を切り裂く力の奔流。大海を荒らす衝撃波の嵐。
その全てが一人の【ヒト】だった者が放つ【復讐】の叫びであった。
その殺意は迫り来る全ての【驚異】へと向けて容赦なく放つ。
樹が穿った【錫杖】を間際にして────【魔王】は怒りの咆哮を轟かせる。
「────────!!」
黒い光が、輝く。
【闇の咆哮】とは威力も範囲も桁違いの一撃が修二の口から飛び出していた。
「──【魔王の咆哮】」
ピキ、ピキキ、ピシッ、と。
身体半分を覆っていた黒い鱗が八割以上も修二の表面へと張り付く。鋭い牙を口端から覗かせ、四肢は完全に異形のモノへと変貌。
大きく開いた口からは膨大なエネルギー波が放たれ、樹へとそれは向けられる。
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