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「……っ!!」
ジュッ、と。呆気なく錫杖が高エネルギー波に触れた瞬間に蒸発する。
樹の腕に装着されていた【WF】からバヂッと火花が散った後に地面へと落ちていた。
優位な立場であった筈の【御郷 樹】は完全に絶望的状況へと追い込まれる。音速の域に達していた錫杖を消し去って尚も、修二(魔王)が放った高エネルギー波の勢いは止まることはなかったから。
──初めて、樹の表情に焦りの色が浮かぶ。
「……あー、不味いな、これは流石に洒落にならないかも」
今更飛び退くことすら叶わず、大気を焼き焦がしながら迫る黒い閃光に対して樹は諦めにも似た態度で呟く。
目と鼻の先にまで接近した【魔王の咆哮】が御郷 樹の身体を吹き飛ばすのと、
「…………ごめん」
何処かの“誰か”へと向けて謝ったのは同時だった。
そして、凄まじい轟音と共に都市は破壊されていく。大小様々な建造物を薙ぎ倒し、コンクリートで塗装された地面はごっそりと抉り取られて土を剥き出しにする。
逃げ惑う人々の声が響き渡るも、徐々にそれは少なくなっていく。理不尽な【暴力】により無念の死を遂げる人間が後を絶たなかったから。
阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられ、助けを求める人々の声が怨恨を抱くが如く【魔王】へと向けられていった。
【ヒト】の【恐怖】を糧とするように、【魔王】はさらに無慈悲なる暴虐の一鎚を放つ。
「────カァッ!!」
先程と同じ要領で黒い閃光を煌めかせる。
口元に収束された闇の塊が小さく圧縮され、その威力を極限まで引き上げていた。
今度は【破壊】など生易しいモノではなく、チリも残さぬ【消滅】の為の一撃を準備していた。
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