911人が本棚に入れています
本棚に追加
衣類は既に大部分が破れて肌が露出しており、身に付けていた下着が露になっていた。
──そう、視界に入る損傷は衣類にのみ留まっていた。
肝心要たる御郷 樹は瓦礫の埃や煤(すす)汚れこそあれ、その白い肌には一切の負傷が存在していない。
これは最早『頑丈だから』という理由だけで納得するには苦しい言い逃れ。故に、彼女の『真価』たる力の正体が今まさに明かされようとしていたから。
──大気を切り裂き焼き焦がす破壊の咆哮が樹へと直撃する刹那、
「──【硬気功・金剛】」
樹が唱えた直後に右足に蒼白い光が灯り、彼女はそれを高エネルギー波へと向けて蹴り放っていた。
ヂヂッ、と。樹の右足とエネルギー波が触れて音を鳴らす。膨大な熱量を放つそれを、御郷 樹は気合いの掛け声と共に────。
「……っ、ぁ、アァァァアアアアアアアア!!」
──空中へと軌道を変えて蹴り上げていた。
遥か上空へと軌道を逸らされた【魔王の咆哮】は雲を裂き、大気を越え、宇宙空間まで差し掛かった所で膨大なエネルギーを撒き散らしながら爆ぜる。
その光景はまるで巨大な【花火】のよう。
幻想的な現象に、人々も呆気に取られて空を見上げていた。
「…………グルルゥ」
自慢気に解き放った“必殺”の一撃を易々と回避した樹を睨みつつ、修二は唸り声を喉元から鳴らす。
遥か後方へと吹き飛ばした樹の表情を伺うことも出来ず、ただ彼は正体不明の【人間】を眺めるしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!