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12月24日――
夜のまどろむ静けさの中、やわらかな綿雪が舞い降りる。
「桃花…ずっと一緒にいようね」
彼女は私の手を掬い、左手の薬指に優しくキスをする。
咲いたばかりの白百合の様な肌に伝って流れる、彼女の長い黒髪。
「小夜子…綺麗…」
その艶やかな美しさに目を奪われて、私は悦楽の余韻に浸りながら熱い息を吐いた。
一ヶ月前―――
「桃花-。部長が後で部屋まで来るようにって」
食堂から戻った私に、同僚が声を掛けた。
「…そう、ありがとう」
私は口もとに笑みを貼り付け、部長室へ足先を向けた。
「今夜、少しなら時間が取れる。いつもの部屋で待ってる」
部長は私の首筋に手を回し、耳朶に唇を押し当て囁く。
触れられた耳から痺れる様な感覚が広がり、私はビクッと肩を縮めた。
「…んっ…少しってどれくらい?」
「二時間くらい」
「二時間…本当に少しなのね」
私は閉じていた瞼を開け、彼の妻が選んだネクタイを見つめ皮肉めいた言葉を落とす。
「仕方ないだろ。拗ねるなよ。そうだ、Xmasプレゼントは何がいい?」
彼はフッと小さく笑い、まるで駄々を捏ねる子供をあしらう様な目を向ける。
「…ケーキ」
「ケーキ?」
「Xmasの夜、私の部屋で一緒にケーキを食べて」
上目使いで言って、キュッと唇を引き結んだ。
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