桃色の雪が降る夜に

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「Xmasの夜って…無理に決まってるだろ。我がまま言って俺を困らせるなよ」 彼は躊躇う仕草も見せず。 私の頭を撫でながら征服欲に満ちた笑みを浮かべ、唇を塞いだ。 自分の父親と年端の変わらないこの男と初めて関係を持ったのは、二年前――私が入社して三年目の春。 不倫関係など望んではいなかった。でも、好意を抱いていたのは確か。 流されるように妻子ある男と体を重ね、勿論、罪悪感はあったけど… 優しく包み込んでくれる彼の腕が心地よくて、彼が与えてくれる溺れるような快感が欲しくて―― いつしか罪悪感は、身勝手な恋が生み出す切なさと苦しさで掻き消されてしまった。 「可愛い俺の桃花…愛してる」 私の上で荒い息を上げる彼が、甘い声で囁きを落とす。 アイシテル… 愛って、ナニ? 『俺を困らせるな』…側にいたいと願う気持ちが迷惑なんでしょ? あなたが欲しいのは心を開く私ではなく、体を開く私だけ。――あなたが欲しいのは欲望の奴隷。 どんなに抱かれても満たされない…心が。 精神が体から引き剥がされるように、例えようの無い虚無感が襲う。 淋しい… 私を抱いて… 私の心を抱いてよ――。
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