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それと体自体が古いため、長年の振動のためにボルト止めの穴からもにじんでいるからどうしようもない。
これでも、昔は最新式として名を轟かせていたのに……
小型の体なのに、そのパワーは並み居る強豪から少し劣る程度、劣ったパワーは軽い体が楽々カバーしてくれた。
無駄なく、コンパクトに、そして引き締まった魅惑的なボディのおかげで、兄弟は多かったのだ。
それはもう、世界中に唸るほどいるはずだ。
そういえば、仲間が風の噂で僕たちが生まれた祖国で映画の主演を勤めたことがあると言っていた。
なんだっけ……なんとか大作戦だったか……
まぁ過去の栄光にすがっていても仕方がない。
本当に過去の話となってしまったのだから、僕らの仲間が新たに出来ることはもうない。
正規のパーツだってもうないのだ。
街を走っていると、今までいたはずの仲間の姿がどんどん消えていくのがわかった。
みんな何処へ行ってしまったのだろうか?
どん!という音と共に、僕の心臓部が隠された。
ご主人が腰に手を当てて、天を仰いでいた。
そして取っ手を握り、むわっと舞う高温の空気が外へと排出された。
ご主人はそれを見越して若干、身を退いていたがその程度では逃げ切れない。
うわぁっという渋い顔をしながら、仕方がないというように狭い体内にその大きめの体を縮こませながら押し込めてくる。
ラバー製のクッションがそれだけで悲鳴を上げる。
体が若干傾くのはご愛敬。
ラバーも劣化してきているのだ。こればっかりはどうしようもない。
キーがねじ込まれ、ペダルが二カ所踏み込まれる。
シフトが入っていないことを念入りに確認すると、一瞬だけご主人は左手を伸ばそうとした。
でも、すぐに引っ込めた。
チョークを引こうとしたのだ。
これも癖のために、手が出るだけでこの時期チョークなんかいらないのだ。
今の車には全くない機能だ。
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