4人が本棚に入れています
本棚に追加
温度が低いと僕らの好物であるガソリンが気化しにくくなってしまうのだ。だから、点火に必要な気化ガスを得るのに最初から多めのガソリンを投入すれば気化ガスも多くでるでしょ?
そんなおおざっぱな装置だ。
もちろん、こんなシステムを使っているのは僕らの中でも古いタイプだけ。
まぁ、これがいいんだよ!っていうマニアもいるみたいだけど、若干心臓には堪えるときもあるんだ。
ド、ドルッ、ドルルン!
軽快とはいかない始動。
最近調子がよくないのだ。
息切れも昔に比べれば早くなった気がする。
もっとも、息切れするまで走ることは滅多にない。
カッチ、カッチと機械式のウィンカーの動作確認をすると、ご主人は満足そうに頷いた。
ゆっくりとスロットルを上げ、僕の心臓がうなりを上げる。
そうしている間にもご主人は汗ダルマになっていく。
僕に最先端の文明の理であるクーラーなどという、邪道は積まれていない。
なぜかって、僕の心臓が保たないからだ……
あんなのを積まれれば、僕の心臓はそっちにばかりパワーを送ってしまい、前へちっとも進まなくなってしまうんだ。
一回、前のご主人に強制的に取り付けられたことがある。
でも一週間もしないうちに外されて僕は二つの意味で自由の身になった。
そう……二つの意味で……
だから、僕は今のご主人の下にいる。
灼熱地獄をラバーが食い込み、軽快に風を切る。
あれなんですよ?
古いからって、そこらのへっぽこと一緒にしてほしくはないんですよね。
この魅惑的ボディの軽量さは今もなお認められていて、初速は早いんですよ?
しかも小回りがきくから、どこへでもスイスイとストレスなく進むんですよ!
仮にも昔はラリーの王座にも輝いたことがあるくらいなんだから、それくらいね?
ご主人はレバーをくるくると回し窓を全開にさせていく。
止まったときは、身を乗り出して助手席のレバーもくるくる。
窓を全開にさせないとやってられないんだ。
それでも、この時期は外からも熱風が入り込んでくる。
最初のコメントを投稿しよう!