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深夜、突如として起こった爆発音は高級住宅街に大きく響き渡った。
「なっ…」
目の前の家が音を立てて燃えだす。その光景を絶句して見つめる一人の少年の姿。
年齢は十六、七ほど。
今は呆けた顔をしているが、標準よりはかっこいいと言われる程度の顔をし、今ではいっそ珍しいほどの黒髪黒目。やや目つきが悪いのが難点といえば難点か。体つきはほっそりとしているが、ひ弱な感じは一切しない。しかし、実を言えば、そんな彼はこの街の住人ではない。
そもそも、こんな時間に黒づくめの恰好で、顔にはスキーをする時につけるようなゴーグル、耳にはマイク付きのインカムをして屋根の上にいるのだ。誰かに見つかったら即座に通報されるであろう。今のように火事の起きた家の向かいの屋根にいた場合には、まず間違いなく。
『…へっ? ちょっと火薬の量、間違(まちご)うたか? 失敗や~、まぁええけど』
インカムから流れて来た声にハッと我に返りかけた少年―相模 烱(さがみ けい)だが、その内容に再び唖然とした。
『烱? 聞こえてる?』
声の主は彼の相棒だが、この状況を作り出した張本人でもあったらしい。
「ああ…つうか、コレ、やりすぎやろ」
こめかみを押さえながら抗議する。絶対に誰か起きただろう。別荘地として使われている地域で、せっかく平日の深夜に行動しているのにもかかわらず。目撃されたらどうするつもりなのか。
『少ないよりはましやん。…ほな行くで』
「おいちょっと待て」
『待たへん。そんじゃね』
彼の相棒は、少々行き当たりばったりに行動を取ることがある。
烱は大きく溜め息をつくと屋根を蹴り、向かいの家へと飛び移る。そしてそのまま燃え盛る炎の中へと身を躍らせた。
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