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今日、中が無人であることは承知していた。それでもここまで燃やすことはないだろうと思っていたが、炎は勢いよく燃えているように見えて、実は大して燃えていない。人が通る隙間はちゃんと残っている。計算しつくした上で、火薬を設置していたのだ。
烱は感心していいものかどうかしばし悩む。が、気を取り直して走り出した。
「目的のものは二階だったな。二階の奥の…」
事前に入手し、頭に叩き込んだ見取図を思い浮かべつつ、小さくつぶやきながら駆け抜けていく。彼は今回とあるものを盗むため、相棒とともにこの屋敷へと乗り込んだのだ。
彼らの獲物はこの家の主が家宝にしている拳大のサファイア。この宝石には、おそらく所有者も知らないであろう、ある仕掛けが施されている。そのために彼らに狙われることとなってしまったのだ。
『それにしてもなぁ…』
インカムからはまたしても相棒の声が聞こえて来た。
『二十畳もある隠し金庫って何なん?全然隠してないやん。こんな広さやったら部屋や部屋。なぁ、そう思わん?』
「まぁ、確かに…」
次に何か言ってきたら文句を言ってやろうと思っていたが、その内容に烱は思わず深く同意してしまう。
情報によれば、この家にある“隠し金庫”に目的のサファイアは保管されている。が、金庫の大きさが普通ではなかった。事前に得た情報が正しければ、その大きさは二十畳の部屋と同じ大きさなのである。
烱はその情報を見た瞬間、相棒とともに、しばし絶句してしまった。自称〈目利きの美術品コレクター〉である主がコレクター品を保管するために作らせた特注品。しかし、集めた美術品はそこにしまってあるだけであるため、周りからは金に物を言わせて美術品を買いあさる、ただの成金と認定されていたりするのだが。
『えらいため込んでるなぁ…さっすが噂通り、業突く張りのおっさんや』
なおも相棒の声が聞こえてくる。
「うるさい黙れ」
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