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ようやくたどり着いた、自分の部屋よりも広い金庫の前で烱は言い放った。扉はすでに開けられている。どうやら相棒の方が先に到着したようだ。
最短距離をとったために、炎の側を通るはめになり、耐火仕様の装備をしているとはいえ、むき出しになった顔や腕が火照っている。
「へっ? もう来たん? 早いやん。上出来、上出来」
中へ足を踏み入れると辺りを見回していた相棒の姿が見えた。同い年の少女である彼女の名は、園生 刹那(そのう せつな)。肩まである黒いストレートをポニーテールにしている、大きめの目がチャームポイントと言い切るお転婆だ。烱と同じく、黒づくめの恰好をし、ゴーグル、インカムをつけている。ただし、ゴーグルは首元まで引き下げられている。監視カメラが沈黙しているのを知っている烱も物色がしやすいため、同じようにゴーグルを引き下げた。
「…目当てのものは? また目的忘れてあちこち物色してたんやないやろな?」
「またとはなんやねん。目的を忘れたことなんか一度もないやん!」
刹那が怒鳴って来る。何でこいつはこんなところでも元気なんだろうかと烱はこっそり思う。
「はいはい。で? 見つけたんか?」
ただでさえ、愛想がないと言われる顔をさらに険しいものにして再度問いただしてみるが、子どもの頃から見慣れている刹那には効かない。澄ました顔で、あっち、という風に一つの箱を指し示す。それはこの部屋の中でも、最も上等の箱。蓋を開けると中には目当てのサファイアが姿を見せた。
「うわー綺麗やなぁ…。これが悪魔やなんて信じられへんわ」
横から刹那が覗き込んで、歓声をあげるが、烱はさっさとサファイアを箱から取り出し、用意してきた袋にしまいこんだ。
「ホンマ、感動せぇへん男やな」
からかうように顔を覗き込んで言ってくる刹那を見返して烱は反撃する。
「消防車が来る前に脱出するで。誰かさんのおかげで火事に気付いた奴が通報してるやろうからな」
とたんにムッとした表情を見せる刹那に軽く笑い、烱は扉の外へと出る。続いて刹那が出てくる。あちこち見て回った割には何も手にしていない。彼らの目的はサファイアのみ。目的以外の物には手を出さないのがポリシーだったりするのだ。
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