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二人は耐火仕様になっている金庫の扉を元通りに閉め、ゴーグルを装着しなおすと駆け出した。もうじき消防車がやって来るだろうが、消火作業が終わる前にコレクションが燃えてしまうのは避けたいと思ったからだ。何もこの家の主を思っての行動ではない。価値あるものが灰となってしまうのはもったいないと思ってのこと。たとえ、火をつけたのが自分たちであっても、だ。
「ん~、ここまで来たら大丈夫やろ」
二人が足を止めたのは少し離れた公園の林の中。照明もないその林の中は人がいるということなど、知らなければ分からないほどに暗い。
「あまり大声出すな。人がいてたらどうするつもりや」
小声で烱がたしなめる。刹那はテヘっと笑うと大きく伸びをする。
「ミッション成功~」
今度は無言で刹那の頭を軽くはたいた烱。人通りがほとんどない公園であることは調査済みだったが、誰かに聞かれるかもしれないと用心することにこしたことはない。騒音一つない静けさの中、刹那の高い声はよく通るのだ。
「何すんねんな。文句は口で言い」
烱の無言の抗議を、それでも正確に読み取り、小声で文句を言う刹那。烱は呆れた顔を向ける。
「な…うちが何(なん)か悪いことしたん?」
「刹那は不用心すぎ。さっさと引き上げるで。それに、これを所定の場所に収めるまでがミッションや。気ぃ抜くな、アホ」
これ、とサファイア入りの袋を示しながら言う烱。ぐうの音も出せなくなった刹那は、悔しそうな顔をした。
「そんなにけちょんけちょんに言わんでもええやん…」
そんな言葉が風に乗って消えたとき、二人の姿もまた、どこかへ消え失せていた。火事の現場にはすでに消防車も到着し、野次馬も集まって来ていたが、二人の姿を目にした者はいなかったのだ。
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