第一章

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今は大正9年。 丘から街並みを観ているもの有り。片手には木刀をもってはいるが、服装からは不釣り合いである。その横顔は凛としていて、どこか儚さがある。 「ここに居られましたか。暁様」 「何のようで?私はっきりと申し立てたはずよ、あの人の思いにしかと応えてるの勝手すぎるわ。ねぇ、晋ちゃん、私とここから逃げない?」 「…」 答が返ってこないことくらい私は知っているじゃない。 「冗談よ」 「申し訳ございません」 謝らなくていいのに。貴方がもう前みたいに話し掛けてこないことも、貴方と冗談を言えたりすることも、もう出来ないと分かっているのだから。 父上も母上もこの世を去ってしまわれて、あの人はそれでもまだ、足りないと申すのでしょうか? 「晋太郎、私はこれから師範代の元へと参るつもりです、なので叔父上には私は婚姻もしなければ家元を継ぐつもりもないと伝令頼まれてはくれぬか?」 「私には拒否権など初めからありません。かしこまりました。当主には私からお伝えいたします。最後に、暁様、どうかこれから先気を付けて下さい」
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