俺様

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「やんのかよ、てめぇ。」 鷹雄の顔が、怒りに染まる。 その顔を見ると、俺の中の闘争本能が反応し、背中がゾクゾクと震えた。 やるか? マジで。 久し振りに、いいかも。 特に考える事もせず、本能のまま自分の体を動かす。 全力で繰り出した右足は、鷹雄の顔の前で、その両手に塞がれた。 パァン!!という乾いた音が鳴り響き、鷹雄が一瞬顔を歪める。 「ーーーーーーてめぇ、ぶっ殺すぞ。」 ギロリと鋭い眼光で睨み付け、思い切り右手を俺目掛けて突き出して来る。 顔面を狙った拳を、ギリギリでかわすと、ゴオッ、と耳元で風を切る音が聞こえた。 いいね。 ゾクゾクする。 恋なんて、下らない。 喧嘩の方が、何倍もエキサイティングだ。 更にパンチを繰り出そうとした時、いきなり横から店員が現れた。 ーーーーーーっぶね! 出していた拳を止める事が出来ず、 けれどさすがに、無関係の店員を殴るわけにも行かない。 瞬時に考え出した結論は、そのまま体制を崩して避けるという事だった。 「ーーーーーーっ、」 体を倒し、無理やり軌道を変える。 その瞬間、変に腰を捻った感触があった。 「ーーーーーっぶない!!」 倒れそうになった俺を、鷹雄が身を乗り出して抱きかかえる。 「馬鹿かお前は!」 一体、何に対して馬鹿と言われたのか、分からない。 ただ。 鷹雄に支えられたおかげで、倒れなくて済んだ事は確かだ。 くそムカつくけど。 「………悪ぃな。」 小さく、聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、呟く。 鷹雄は特に返事もせず、俺の体をゆっくりと起こした。 「ーーーーーーーーーっぃ、てえ!!」 腰が。 腰、ヤバいんだけど。 「だから、馬鹿っつったんだよ。」 あぁ、これね? いや、つーか。 マジでダメ、本当。 「大丈夫か?」 「大丈夫………………………じゃねぇよ!いてぇ!!」 いきなり飛び出して来た店員を、殺意を込めた目で睨み付ける。 「ひいっ、す、すみません!!」 あんたが悪いって訳じゃねーけど。 いや、 痛いからやっぱりシメとくか。 「アホか。」 俺の心を読むように言うと、鷹雄は俺の体を支え、歩き始めた。 「行くぞ。」 ちぇ。 久し振りに、楽しい喧嘩が出来るかと思ったのに。
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