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「11秒50!」
「おー!!!」
速度を落とし始めた私の耳に歓声が響く。
「これオリンピック行けるんじゃね!?あ、世界陸上も!」
「ちょっと大輝、また女子の方に来て!」
部長の環菜先輩に黒い短髪の男子、石川大輝が詰められてる。
「いやだって女子の日本記録って11秒台だろ!?すげーよ、杏里!!」
「はぁ、はぁ・・・」
全力疾走した私は両手で両膝を押さえながら顔を上げた。
後ろでポニーテールをしている長い髪が背中を流れる。
「大輝、うるさい・・・」
「杏里相変わらず冷たい・・・」
走った直後に話しかけられても。
元々口数少ないんだから仕方ないじゃない。
じっとしてるだけでも汗が流れる8月の午前11時。
ぬぐっても意味のない汗で地面にしみを作りながら、環菜先輩の方へ足を進める。
「先輩、本当に11秒50・・・?」
「本当よ!ただの練習だけどこれはすごいわ!あとで顧問の神川先生にも伝えましょう!!次の大会には1年生ながらの出場決定ねっ」
中学の時から続けていた陸上。
中3の最後の夏の大会で私はこけてしまった。
何の記録も残せなかった。
辞めようと思ったけど続けて良かった。
「先輩、ありがとうございます・・・!」
「私は夏休みの自主練に付き合っただけじゃない。杏里の努力の成果よ」
ツリ目の環菜先輩が優しく微笑むと、私は女ながらにそのギャップに惚れそうになる。
うれしくて、うれしくて涙が出そうだ。
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