第1章

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涙の代わりに大量の汗を流しながらその日はもう1時間だけ練習をして解散をした。 午後は暑すぎて練習にならない。 「杏里、昼飯食いに行こうぜ!」 「・・・」 いつの間にか着替えを済ませた大輝が私の隣にいた。 「男子の練習、終わったの・・・?」 今日は男子は総出で練習の日だ。 女子は自主練で来ていた数人しかいない。 「この暑さだろー?熱中症になったらいけないから今日は午前練習で終わり!」 そう言って大輝は黒い肩掛けカバンを背負いなおす。 私も色違いの茶色のカバンを背負いなおした。 今日は練習用の体操服とタオルしか入っていない。 「財布、持ってきてないから」 私は伏し目で答える。 「大記録の祝福におごってやるって!」 日に焼けた肌に笑顔がまぶしい。 明るくて、面白くて、優しい大輝。 「・・・じゃあ行く」 本当はおごってもらえなくても行きたい。 中学から一緒の大輝が陸上を続けようって説得してくれなければ私はここにいなかった。 でも恥ずかしくてそのお礼も言えないし目を見て話もできない。 「じゃあ杏里の好きなとこ行こうぜ!高すぎるのはナシな!」 「うどん・・・」 「うどんでいいのかよ!」 あまりしゃべらない私としゃべりすぎる大輝、それでもやや騒がしい感じで私たちはうどんを食べて帰った。
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