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新熊野は年齢の割には大人びて、そして、見た目のままに、年齢よりも遥かに考えのしっかりした、まさに大人であった。そして、彼は左耳に耳瘻孔を持っていた。
(足利家の証!ああ、兄者にもわしにもなかった証がこの者に……)
長兄にだけ受け継がれた足利家の遺伝を、この青年は確かに受け継いでいた。
新熊野。これが直冬である。
(あの女は、わしにこの子を任せたいと言いたかったのだろうか)
登子が、頑なに我が子と認めない尊氏に諦めて、直義を頼ったのだろうか。夫が否定している以上、妻がはっきりと自分の意思を伝えるわけにもいかず、耳の話だけしていったのかもしれない。
(ただ一度のことでも、この子は兄者の胤に違いないのだ)
確信した直義は、新熊野――直冬を自分の養子にする。
(それに、あの女が東勝寺に預けたなら、兄者は今では忘れてしまったのかもしれないが、相手の女にはそれは我が子だと、当時は認めたのだろうし、妻であるあの女にも話は伝えていたのだろう)
ところが、直義が直冬を養子にすると、登子は怒って直義を排斥し始めた。直冬を夫の子とは断じて認めない。尊氏はひたすら迷惑がり、またうじうじと困惑した。
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