落胤

8/17
前へ
/50ページ
次へ
尊氏は直冬を我が子と認めなかった。そして、登子の影響か、師直の方に心が傾いて行ったのだ。中立を装いながら――。 師直は南朝方を徹底的に叩くなど、功績目覚ましく、直義を遥かに凌ぐようになっていた。直義には危機だった。 圧倒していく師直。しかも、大御所・尊氏と御台・登子の心もそちらにある。増長による師直の乱暴狼藉を理由に、叩くしかなかった、直義が力を維持するためには。 直義は立ち上がった、師直を、高一族を討つために。だが、逆に直義が追い込まれて危機に陥り、直義は尊氏のもとに逃げ込んだのである。 すると、師直はこともあろうに、尊氏の邸を軍勢でもって取り囲んだ。 「将軍御所を取り囲むとは、師直め、狂ったか?いや、あやつなら、将軍だろうと構わず攻め込むだろう。弟、わしはおことと一緒に攻め殺される運命のようだ」 尊氏は青ざめて、声を震えさせた。尊氏は家族とともに邸でくつろいでいた。寝耳に水の事態に慌てたのだろう。 尊氏が間に入って、外の師直と交渉した。使者が往き来する。交渉には時間がかかる。 使者が師直のもとに出向いている間は、何もすることがない。 迷惑そうに直義を睨む登子を尻目に、光王(亀若)が笙を持ち出してきて火鉢に翳し、顔色の悪い尊氏にねだった。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加