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尊氏は直冬を我が子と認めなかった。そして、登子の影響か、師直の方に心が傾いて行ったのだ。中立を装いながら――。
師直は南朝方を徹底的に叩くなど、功績目覚ましく、直義を遥かに凌ぐようになっていた。直義には危機だった。
圧倒していく師直。しかも、大御所・尊氏と御台・登子の心もそちらにある。増長による師直の乱暴狼藉を理由に、叩くしかなかった、直義が力を維持するためには。
直義は立ち上がった、師直を、高一族を討つために。だが、逆に直義が追い込まれて危機に陥り、直義は尊氏のもとに逃げ込んだのである。
すると、師直はこともあろうに、尊氏の邸を軍勢でもって取り囲んだ。
「将軍御所を取り囲むとは、師直め、狂ったか?いや、あやつなら、将軍だろうと構わず攻め込むだろう。弟、わしはおことと一緒に攻め殺される運命のようだ」
尊氏は青ざめて、声を震えさせた。尊氏は家族とともに邸でくつろいでいた。寝耳に水の事態に慌てたのだろう。
尊氏が間に入って、外の師直と交渉した。使者が往き来する。交渉には時間がかかる。
使者が師直のもとに出向いている間は、何もすることがない。
迷惑そうに直義を睨む登子を尻目に、光王(亀若)が笙を持ち出してきて火鉢に翳し、顔色の悪い尊氏にねだった。
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