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(兄者はわしが邪魔だったのか？義詮に将軍を譲るために、わしを追い出したのか？そのために、師直を利用したのか？)
師直に政変を起こさせたのか。
(何故だ、兄者！わしは弟ぞ！それに、わしの後を継ぐ直冬は兄者の子。義詮が勝っても直冬が勝っても、将軍になるのは結局は兄者の子ではないか！)
どうしてこうなったのか。どうして尊氏の子の直冬を養子にしてから、兄との関係に亀裂が入ってしまったのだろう。
(あの女か)
登子の般若のような顔を思って寒気がした。頭を剃ったせいもあろう。
鏡の中の自分に、なんたる姿かと罵った。
足利家の天下を強く願った直義が、望み通り武士の頂点に立った直義が、入道になっている。どうしてその極みを維持できなかったのだろう。
(あれか……不犯を破ったからか……)
思えば最近、女犯した。妻があまりに気の毒で。女ではないと我が身を嘆く妻に、情けをかけてしまった。
極みに至り、気がゆるんだか。だから妻を。そして、その途端に霊力は一気に衰え、こうして失脚することになったのだろう。
(妻だぞ。それでも駄目なのか？)
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