落胤

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光王の姿が完全に庭から見えなくなったのであろう。尊氏はそっと言った。 「御台か。思う壺だろうな」 「大御所様が直冬を憎むことがですね」 「違う。こなたが彼奴を養子にしたことだよ」 よくわからない。登子には、優秀な継子の直冬がしかるべき地位にあるのは、困ることではないのか。 「御台とて母。我が子は可愛いだろう。だが、恨みは我が子さえ、ただの手駒に変えてしまう」 益々わからなかった。 「御台は多分、直冬を何とも思っていない。御台はこなたが直冬を養子にしたことに、ほくそ笑んでいただろう。直冬がわしの子ならば、義詮と跡目争いをさせられるからな」 そして、尊氏と義詮、直義と直冬に分裂して、まんまと争わされることになってしまった。 「拗れれば拗れるほど、御台には悦び。御台は幕府がばらばらになり、足利家が滅亡することを望んでいる。こなたはまんまと乗せられて、直冬を足利家に入れ、わしも御台の意図に気付かず、心のままに直冬を憎悪してしもうた」 「足利家の分裂を、御台様が望んでおられたと?」 「今にして気付いたよ。北条の姫だ、足利に滅ぼされたのだから、復讐して当然だ」 うっかり愛に溺れたと、尊氏は自嘲した。 「なあ、弟。これからは仲良くしよう。このまま戦を繰り返していては、御台の思う壺だ。だから、わしはこなたを許すよ。帝に願い出て、こなたを許して頂こうと思う」
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