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朝廷も一つになったしなと、穏やかに笑う尊氏。
「兄者……」
空気が春の風のようにゆるみかけた。が、その雰囲気のまま尊氏はこう言った。
「だが、直冬だけは許すことはできぬ。直冬を出頭させよ。それがこなたを許す条件だ」
「それはどうして!」
直義のいる幽居の空気だけ凍る。
「だから、直冬はわしの子ではないと言うておる」
「まだ左様なことを。兄者が直冬を排斥すれば、なお足利が分裂を続けることになる、ますます御台様の思う壺。御台様の企みに勝つには、兄者が直冬を慈しむしかない。兄者、直冬は兄者の子じゃ。直冬の耳の孔をご存知ないのか?」
「知っている。だから言っている。直冬は確かに足利の子。だが、わしの子ではない。だから直冬はならぬ。気付かぬか?」
いよいよもって直義にはわからなかった。
「ふう。つくづくなあ、こなたの不犯を見習うべきであったと思うわい」
尊氏は疲れたのか、そこに腰を下ろしたようだ。
「こなたが直冬を養子にした時、わしは彼奴が二十歳過ぎていると言わなんだか?」
「仰せでした。とても老成した立派な子でした」
「老成ではない。年相応と言ったはずだ。顔も大人だった」
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