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「はい。直冬が二十歳前だと言うのに、兄者は三十のくせにと仰せられて」
「二十歳過ぎならば、大人に見えて当然。二十歳より優れている道理よ」
「兄者?」
「彼奴が生まれたのは、おそらくわしが十代初めの頃だ。寺に預けたのは、きっと継母なるお人」
「え?」
父・貞氏の正室、長兄の生母。何故――
「よくよく考え、記憶を捻り出して、ようやくおぼろに思い出したのだ。わしが初めて女体を知らされた頃、数日おきに女がやって来たが、多分、その中の一人が彼奴の母だったと思う。あれらの女どものうち、兄上のもとから来た者もいた。女は兄上とかなり親密な様子だったな。兄上の死後、わしもその女と二、三度会うてしもうた故、直冬が絶対にわしの子ではないと証明できなくなってしもうたのよ。こなたのように不犯を通せば、我が子でないと証明できたのだがな。自業自得だ、つくづく反省するよ」
直義は心臓が飛び出そうになった。頭にまで響くその音は警鐘だ。
「直冬はおそらく本当は、十とは言わぬが五つ六つは歳が大きい。そして、その胤はわしではのうて、兄上よ」
「嘘だ……嘘だろ……」
「耳の孔はわしにもこなたにもないではないか。孔があるのは兄上だけだ。直冬は、この足利の嫡流なのよ」
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