落胤

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二人の異母兄・高義は足利家の正嫡であり、彼が存命ならば、尊氏が家督を継ぐことなどあり得なかった。 高義の遺児達は、何れも討ち死にしたり、僧籍に入っており、武将としてはこの世に一人も存在しない。 「もしも兄上のお子が今、俗世にあるならば、わしは無条件にその人を将軍に就け、叔父として後見しなければならないだろう。わしの将軍職なぞ有り得ない、まして義詮なぞ絶望的だ」 「あ、兄者、わしは、わしは何てことを……」 「我等の血を守るために、直冬の出自は極秘のまま、彼奴を討たねばならんのよ」 直義の気が遠退いていく。 (よりによって、わしが、長兄の血を守っていたのか!?) 「彼奴の母はとんでもない女だ。きっと兄上がご存命なら、兄上のもとに直冬を送り込み、足利家は相続争いに乱れたであろう。しかし、兄上は亡く、わしが将軍になった。女め、我が子を将軍にしたいと思ったのだ。わしと関係のあった女だからな、わしの子ということにして、直冬を送り込んだのだわ。運悪く、わしも絶対我が子でないと断言できない状態だったからな。確かに足利の血を引いてもいるし、直冬めは」 「大御所様!」 「こなたが養子にしてしまったからな。兄上のお子という真実が知れ渡るよりは、わしの隠し子の方がまだ都合がよかっ……」 「大御所様!!」 大声に、まだ何か言っていた尊氏の口が止まる。
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