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私は久藤の抑圧とは逆に底知れない怒りがふつふつと沸いてきた。
無邪気さの残酷さを知り、久藤が表現できない怒りを代わりに彼女にぶつけてやりたかった。彼女の初対面の好印象は現在、地の底を突き破って宇宙の塵になった。
悔しさから唇をギリと噛み、何故か涙まで滲み始める。
でも、私が久藤の為に泣いた所で何になる?
私は唐突に久藤の腕に自分の腕を絡ませて引き寄せた。
「ちょっと、先輩!時間無いから行きますよ」
ぐいぐいと引っ張る私に意図が飲み込めない久藤。
彼女に全て奪われていた意識が少しだけこちらに戻った気がする。
引っ張りながら、私は翠を睨みつけた。
「先輩がいないとミーティングが始まらないんだからぁ!」
翠は話の腰を折られた事にひどく気分を害したようだ。
鼻白みながらも、久藤は自分のものと顔に貼り紙したようなものすごく余裕ぶった表情で久藤の名を呼ぶ。
「涼介、くん?」
どこまでも自己中女に心底呆れる。
でも、名前を呼ばれた瞬間に久藤の身体に力が入り、私に引きずられがちだった体勢が頑として動かなくなった。
私は尚も引っ張る腕に力を込めるが、ビクともしない。
久藤の意識はもう完全にあちらを向いてしまった。
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