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もう…傷付いてしまえばいい。とことん利用されて、また独りを味わえばいい。
私は自分に対する仕打ちのせいか、一瞬そう思ってしまった。
もう少し彼の視界に、意識に、心の中に自分がいるものと思っていた。調子にのっていたのは私のほうだったのか。
するりと力が抜けた腕は名残惜しげに指先で久藤のシャツをつまんでいたものの、ついにはダランと垂れ下がり離れてしまった。
振り返らずに二人からスタスタと離れていく私を、勝ち誇った顔で見届ける翠の様子が背中からでも感じられる。
5m、 10m、 15m。
そこまでくると私は歩みを止めてクルリと回れ右をする。
まだ一片の注意も私によこさない久藤と自信満々に返事を待つブリっ子の姿がそこにあった。
「りょょょよよすけぇぇえっ!!」
高校野球のサイレンを思わせる私の恨み節に何事かとギョッと二人が驚きの顔を向ける。
本意では無いが、意識を向かせる事に成功、した。
大きく一呼吸、息を吸う。
「あんたがそこに居たいって言うなら、好きなだけ居たらいいっ!
また懲りずに孤独を感じればいいっ!!でも、あたしは一緒に立ち止まってはあげないからぁ!!
金輪際、私の存在に関わらないでっ!!
りょ、涼介が辛いのは嫌だからっ!
あたしはもう、先に、進むぅっ!」
最後の方は涙が溢れて言葉が切れ切れになった。
そして何故だか、言葉では訣別の台詞を叫びながら両手を久藤に向かって大きく広げていた。
此方に飛び込んでこいと言わんばかりに。
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