第1章

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久藤が小走りになった所で、私は背を向け『全速力』で奴から逃げた。そりゃあもう、陸上部さながらの美しいフォームだ。 あたかも親鳥がヒナを相手に、大空への飛び方を教えるように…。 と、さすがにそのシュチュエーションは脳内だけにとどめておいて、しかし実際は初めて歩いた子供に、親が満面の笑みでおいでおいでしているような図で私達は抱きしめあった。 絶対恋人同士には見えないハグだ、久藤は最後までつまずいたから飛び込むと言うよりタックルに等しい。 私は自分の大事な尻を、地面にしたたか打ち付けて少し静止した。 それでも久藤の肩越しに翠を見やると彼女はもう踵を返して去って行く所だった。 最初から興味なんて無かったわ、と背中で物語っている。 取り残された我々は、土埃のかすかに舞う広いグラウンドに二人きりだった。 きつい陽射しを遮るものも無い中、遠くの木や木陰がオアシスのように映る。 互いの背中に回していた腕の力を少し緩めて、表情が見える位置までくると久藤は照れもせずに清々しい顔をしていた。 「ふふ、」 「くっ、ははは」 どちらともなく笑いだし、ひとしきり収まるまで二人で笑ってしまった。
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