運命の判定は如何に!?(小野寺目線)

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運命の判定は如何に!?(小野寺目線)

*** 「んもぅ、最悪すぎる……」  寒くて鼻水が出てるのか、それともこの状況が悲しくて鼻水が出てるのか分からなくなっていた。  折角綺麗にラッピングしてもらった花束を、人にぶつかって大破させてしまったのだ。  大勢の人が行き交う通りだったので(ほとんどカップルばかり)急いで花を拾い上げるのがやっとで、ラッピング紙もリボンも踏まれてぐちゃぐちゃになっていた。 「とりあえず急ぐべし、とりあえず笑顔を忘れない。最初に言う言葉は、遅れてすみません!」  呪文のように呟いて、自分に言い聞かせる。  彼女を抱き締める様に、優しく花たちを抱き締めて必死に猛ダッシュ。待ち合わせ場所の駅前ロータリーに向かった。  駅前ロータリーには、たくさんの待ち人がいる。たくさんの中でも、一発で亜理砂さんを見つけられる俺って超絶天才だろう。  距離50mの位置から走るのを止めて、呼吸を整えながら急ぎ足にした。花を抱えているため、髪形が整えられないのがイタい―― 「亜理砂さん、お待たせしてすみません!」 「小野寺さん……何か大変そうな格好で……」  俺の姿を見て目を瞬かせながら驚く亜理砂さん。  予定ならこの後に格好良く花束を渡すはずだったが、この状態では不可能だった。 「仕事に振り回された挙げ句に、プレゼントしようと用意したコレにも振り回されてしまいました」  苦笑いすると、亜理砂さんは俺の頬に触れる。 「頬っぺた、冷たいです。少し赤みがかってる」 「亜理砂さんも赤いですよ。かなり待たせてしまったから……。本当にすみません」  俺が赤いのはきっとこれから告げる言葉を言うのに、照れているからだと思われる。今日は、約束の期日なのだから――  花を抱き締めている腕に力が入り、カサリと音が鳴った。 「亜理砂さん、あの――」 「昨日、同僚が小野寺さんの話をしてくれたんです」  俺の話を遮って唐突に話し出すその思い切った様子に、イヤな予感がした。 「その同僚の友人が、小野寺さんと同じ会社にいるらしくて。……いろんな女のコをとっかえひっかえしてるとか、仕事は下半身でしてるとか、男性の上司とデキてる、とか」 「男性の上司とデキてるのは、否定させて下さい。俺、そっちの気ありませんから。残る噂は否定しません、半分以上当たってます。だけど亜理砂さんと付き合っている間は、女性関係ナッシングでしたから!」  身から出た錆とはこのことだ、日頃の行いが悪いと肝心なときに限って上手くいかない。ナッシングと豪語しても、空回りしている気がする。まるで今日やり直し食らった、仕事と同じじゃないかよ。  告白する前に玉砕か……。マジ格好悪すぎる。  居たたまれなくなり、彼女に背を向けた。 (ああ、もぅ、消えてしまいたい――)  肩を落としながらはーっと深いため息をついた瞬間、背中に軽い衝撃が走った。小さくて柔らかく暖かいモノは、俺の躰をぎゅっと抱き締める。  耳元で葉っぱが音を立てた。まるでそれは俺の代わりに、喜んでいるみたいな感じかもしれない。 「花が……潰れてしまいますよ。亜理砂さん」 「私、その同僚に言ったんです。今は私にぞっこんだからいいんだって」 「はい、その通りです」 「前カノから貰った指輪を、仕事の小道具だと平気で嘘をつく人だけど」 「多少心を傷めて、嘘ついてます……」 「見栄っ張りだし、嘘つきは泥棒のはじまりなんだから」 「亜理砂さんの心を盗めるなら、泥棒になりたいです」  本心だけがスラスラと言葉になって出てくる。きっと亜理紗さんの躰から伝わってくる、あたたかさのせいだろう。 「そうやって上手いことを言って、私をモノにしようとするし」  どこか嬉しそうに笑ってる様子がなんとなく背中に伝わってきて、自然と唇に笑みが浮かんでしまった。 「私ね、同僚を叱りました」 「叱った?」 「好きな男を馬鹿にされて、怒らない彼女がいるなら見てみたいです」 「う……そ……?」  今、好きな男って言ったよな?  信じられなくて呆然としている俺の目の前に亜理砂さんが来て、細長い腕を俺の首に回すと、触れるだけの優しいキスをしてくれた。  手にしていた花をバサバサ落とす赤面した俺を、顔色一つ変えずに見つめる亜理砂さん。訝しくなり、彼女の腕を掴んで脈がとれそうな箇所に、指をあてて計測してしまった。 「何?」 「良かった、すっごくドキドキしてる」  はたから見たら可笑しいだろう。地面に花を散らばせているところに、男が女の脈をとって喜んでいる姿―― 「この状況で、ドキドキしない方が難しいんじゃない?」 「だって亜理砂さん、顔色が変わらないんだもん。俺一人だけ、浮かれてるみたいだし」 「昔ね、その顔色でいろいろあったから」  憮然とした表情になるということは、かなり手痛い恋愛をしたんだろうな。 「それより、これからどうするの?」 「俺の家にクリスマスケーキあるんですけど……食べます?」 「ついでに私も、食べられちゃうんでしょうね」  呆れた顔で俺を見る。にゃははと笑いながら、頭を掻いた。 「それじゃあコレ持って欲しいな。私はこの花を持つから」  手渡されたのはボストンバック、これって―― 「亜理砂さん、お泊まりする気が満々だったんじゃないですかっ」  しゃがみこんで、花を拾う亜理砂さん。  どんな顔をしているんだろう?  じっと見つめていると素早く立ち上がり、早足で歩いて行ってしまう。 「亜理砂さん、そっちは方向逆ですよ」  笑いを堪えながら声をかけると、うっすら頬を染めた彼女が戻って来た。その様子が非常に愛らしくて、つい目尻が下がってしまう。 「もう早く、案内して下さいっ!」  ――怒られても幸せ――  そんな彼女の肩を抱き寄せて、一緒に帰路に着いたのだった。
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