驚きばかりのクリスマスイブ

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***   「家の中、あまり綺麗といえないので、ジロジロ見ないで下さいね。ここが俺の家です」  お互い緊張の面持ちで家に入った。綺麗じゃないと言いつつ、しっかり片付けられている。 「今年は一人寂しくここでケーキ食べると思ってたから、亜理砂さんが来てくれて本当に嬉しいです。今、お茶淹れるんで座って待ってて下さい」  はにかみながらキッチンに行く小野寺さんを見て、私まで自然と笑みを浮かべてしまった。  座って待ってるのも手持ちぶさたなので、そばにあった本棚を覗いてみた。持ってる本によって、その人の趣味趣向が分かったりする。 「オススメデートスポット、夜景の綺麗な宿場、カップルで行きたいレストラン、囲碁入門に自動車整備士一級資格への道……」  他にも、車関係のカタログが山のようにあった。趣味はドライブって言ってたけど、車本体も好きなのかな? 「興味深い本でもありましたか?」  テーブルにコーヒーとケーキを用意しながら聞いてきた。 「こういう本を読んで、今までデートプランを組んでたんだなって。市内から郊外まで、全て揃えられてるのがスゴい」 「そりゃ、楽しんでもらわなきゃ。俺も楽しくないですから」  そう言って私の肩に両手を置いて、本棚からUターンさせる。 「ささ、ケーキ食べましょう。ここに座って下さい」 「見られてヤバい本でもあったのかしら。見事な慌てっぷりだけど?」 「そんな本はありません。はいはい、こっち向いて下さい。あーん」  私にケーキを食べさせようとフォークに一口分のケーキを刺して、身構えている小野寺さん。 「自分で食べれます」 「俺が食べさせたいんです。ささ、遠慮なく口を開けて下さい。あーん」 「……あーん」  しょうがなく口を開けると、嬉しそうな顔をして私の口にケーキを入れた。生クリームの甘みと苺の酸味のバランスが、絶妙に美味しい。 「次は亜理砂さんが、俺に食べさせて下さいね」 「……」 「そんな嫌そうな顔して、ホントは嬉しいクセに。何なら先に俺が、亜理砂さんを食べちゃおうかなぁ」  冗談と思えない台詞を言ったので、ケーキを小野寺さんの口に素早く突っ込んだ。目を白黒させながら、口をモゴモゴさせる。 「大人なんだから、自分で食べて下さい」  ため息をついてテーブルに向き直ると、いきなり抱き締められた身体。 「それじゃあ、遠慮なく戴きますね!」  言い終わらない内にソファに押し倒して、強引にキスをしてきた。さりげなく右手は、私の胸をまさぐっている。  ムードの欠片がない行為に身をよじらせて小さく抵抗したら、偶然肘が彼のみぞおちにヒットした。 「うっ!」  体を起こしてみぞおちを押さえる小野寺さんを見ながら、乱れた髪の毛や服を直す。 「まったく。私、逃げも隠れもしないから、もう少しそういう雰囲気に持っていくなりしてから、そういうことをして欲しいです」 「昔ここでってときに、好きなコに逃げられてた過去があって。つい焦ってしまいました」 「焦って、バババッてしようとするからよ。ムード無さすぎ。そりゃ、逃げます」 「折角好きなコから告白されて舞い上がった勢いでやろうとしたのが、悪かったんだろうなぁ。もう少し時間をかけて愛撫していれば、すんなり入ったと思うんだけど」  みぞおちを押さえながら、難しい顔をして考えこむ。 「はじめてだったんだ?」 「ん……。お互いはじめてで、ガチガチに緊張してた。結局上手く挿れられないのと痛いので彼女が俺に足蹴り3回食らわせて、怯んでる最中に帰ってしまったんです。Aカップのブラジャーを忘れたまま……」  私は片手を口に当てながら小野寺さんをガン見した。脳裏には、懐かしい光景が流れている。 「……安達さん」 「どうして俺の旧姓知ってるの。亜理砂さん?」  不思議な顔をしている小野寺さんに、顔面蒼白になっているであろう私。 「その足蹴りしたコが私だから……です」  思い切って告げると、顔色を変えるなり立ち上がって急に距離をとる。 「嘘っ! Aカップのシンデレラが亜理砂さんなんて……」 「私も信じたくないです。あのバス停にいた初恋の彼が、小野寺さんなんて。しかもAカップのシンデレラって何?」 「ガラスの靴じゃなく、ブラジャーを忘れてたから勝手に名称付けただけなんだけど。名前も歳も聞いてなかったし」 「私だって、忘れたくて忘れたんじゃないです! あのときはかなり慌ててたから」  お互いの顔を見つめあった。10年前のことなので、記憶がないのは当然である。 「信じらんねぇ、山田さん。オレらのことをどうやって調べたんだろう?」 「えっ!?」 「だってこんな偶然、有り得ないでしょ。鎌田課長の相棒だからただ者ではないのは確かだと思うんだけど、だからといってこのオチは……」 「小野寺さんを好きになったワケ、今更ながら理解できた。原点に戻ったからだったんだ」 「原点?」  マジックも仕掛けが分かってしまえば、なぁんだとなる。10年前バス停で見て、いいなと思っていた笑顔が同一人物だったとは。記憶にはないんだけど見えない分、無意識に反応していたんだ。 「山田先輩が私の初恋相手が小野寺さんだと分かっていたから、絶対好きになるだろうって豪語していたんだ」  チラリと小野寺さんを見る。目が合った瞬間、いそいそとその場に正座して、しっかり頭を下げた。 「あのときは、ごめんなさいっ!」 「小野寺さん……」 「はじめてだったのに、あんな痛い思いさせてしまって。あの後、君を捜したけど学校が分かってるだけで、名前も学年も不明で。手がかりは、Aカップのブラジャーだけだし」  頭を上げて私を見る、済まなそうな顔の小野寺さん。 「あの後、海外留学したから。家に居たくなかったし、小野寺さんに会わせる顔なかったから」 「海外留学……。どおりでバス停にも現れないワケだ」 「好きだったならあれくらいの痛さ、我慢できたんじゃないかって考えた。だけど――」    キッと小野寺さんを睨んだ。 「アレの最中にナニを握らせるのは、どぅかと思います! はじめてのコだって分かっていながら、どうしてあんなことをしたんですかっ。恐怖心を煽る行為だったんですよ」 「俺だってはじめてで、一生懸命だったから。マニュアル本を頭に反芻させながら、アレコレ試行錯誤してたし……。好きなコに俺の全部を、知ってて欲しかったから」 「今も昔も、口だけは上手いのね」 「亜理砂さんは変わったね、昔はもっと素直だった。俺の言葉に可愛い反応して、赤くなって」 「……顔には出ないけど、これでも小野寺さんの言葉にドキドキしているんです」  その笑顔に声にずっとドキドキして、胸がうるさいくらいに反応しているっていうのにな。 「亜理砂さん、俺……」  言いながら、シュルルとネクタイを外す小野寺さん。外したネクタイを握り締め、意を決したかのように私を見る。  そして―― 「ちょっ、何するのっ!?」 「その純情そうな目で見つめられると、言いたいことが言えなくなるんです!」  手にしているネクタイで、私の目を塞いだ。 「また前のように、言いたいことを言う前にコトがはじまってしまいそうだから。その目で見られると理性が飛んでしまう」  そう言って、ぎゅっと私を抱き締めた。 「10年前も今も、アナタが好きです」 「……」 「そうやって、気のないフリする素直じゃないトコも」  耳元で囁いていた口が、私の耳たぶをそっと食む。甘い衝撃に声を出さないように堪えていると、耳の輪郭をなぞるように舌が動く感じがした。 「んっ……!」  目を塞がれているので、ちょっとした動きに敏感になっている気がする。 「3ヶ月もお預けくらってるんだから、そんなに我慢しなくてもいいのに」  笑いながら、フッと耳に息を吹きかける。 「もう、小野寺さんっ」 「亜理砂さん、好き――」  僅かなキスをして、私を横抱きにした。 「わわっ!?」 「10年前のリベンジと3ヶ月分の溜まったアレを、あんな事やこんな事してキッチリ晴らしますから、覚悟して下さいね。亜理砂さん」  優しくベットに横たえさせると、すかさず上に乗ってくる。 「さりげなく下半身を私の腰骨に当てるのは、どうかと思う」 「それじゃ、直接触る?」  目に見えないけど、どんな顔をしているのか分かってしまう。  それを確かめようと、縛られているネクタイをそっとずらして、目の前にある小野寺さんの顔を見上げた。少し緊張したのを隠そうとして、引きつった笑顔をしている予想通りの顔に、つい笑ってしまった。 「あーあ、外しちゃった。俺、もう優しくできないから」  そう言って、優しく私の頭を撫でる。 「亜理砂さん優しくしないからって、肘鉄とか足蹴りとか飛び蹴りしないで下さいね」 「小野寺さんなら……いいよ。激しくても何でも」 「本当に?」 「しょうがないじゃない、好きなん」  私が言い終わらない内に、唇を重ねてきた。10年前と同じように絡み合う互いの舌に、じわりと体温が上がる。 「俺は愛してます。亜理砂さん」  耳元で囁いてから、首筋を唇が滑っていった。その言葉に答えるように、ぎゅっと彼の身体を抱き締める。 「亜理砂さんの顔、真っ赤になってます」  私の頬に優しく手を添えてから、服を脱がしていった――
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