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 町中に入るとその人波に気持ちが悪くなる泉之である。  何時までも都会生活には、慣れない。 それにしても、俳諧で稼がないと十六夜ちゃんの店にもはいれない。  等と、思っていると知り合いに出会った。  精悍な顔立ちが、不精髭でだらしなく見える。一見すればただの酔っ払いだ。 瞳を覗き込まければ。  瞳の奥には炎が見える。迂闊に触れてはならない何かがある。但し、此方から手を出さなければ何もされないだろう。  だから、泉之は青山の大将にこう言った。 「青山さん、また呑んでいるんですか?」  青山の大将が徳利を肩に掛けてふらふらと近付く。それを目にしながら、まだ青い空には薄くなった月が二人を見下ろしている。  泉之は思わず句が浮かんだ。 春の空 二つの仲間 天と地にも  江戸はまだまだ平和だった。
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