12.女心と初めての贈り物 

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だけど……その当時の私には、子供用の人工補助心臓は日本には認可されていなくて 古い大人用の体外式人工補助心臓と呼ばれる大きなものだった。 元弥君が付けていたのが、それだったけどベッドから動けなくなる。 病院から退院が難しくなる、そんな目の前の可能性を奪われるような選択は 自分では選びたくなくて、ずっとずっと逃げ続けてた。 今回、起こした心不全。 心不全から一度、心停止を起こした私の体は 他の臓器にもダメージを強く残した。 感染症のリスクが強くても、あの大きな人工補助心臓をつけて ベッドに縛られながら、 心臓移植を待ち続けていればこんなことにならなくても良かったのかもしれない。 だけど……これもまた私が自分で選んだ代償。 心停止の影響で、腎臓と……前から調子を崩し始めてた肝臓への影響が強くなった。 心臓の方を、補助心臓で手伝って貰えるようになっても 肝臓と腎臓を悪くした私に、もう心臓移植の選択肢は残されていなかった。 多臓器不全……そうなるリスクと闘いながら、 いかに自分らしく、生きていくか。 それが今の私に本当に残された道。 それでも私は生かされて生きてた。 「理佳ちゃん、調子はどうだい?」 いつもの様に病室に顔を出してくれた宗成先生は いつもと変わらない診察をする。 「理佳ちゃん、そろそろ病室に戻ってみるかい?」 宗成先生は診察の後、そう言葉を続けた。 思わず頷く私。 「よく頑張ったね。理佳ちゃん。  理佳ちゃんの体の中には、前にも説明した通り  人口補助心臓が体の中に埋め込まれてる。  ずっと理佳ちゃんが嫌がってたのは先生も知ってる。  だけど今回の人工補助心臓は、  こんなバッテリーとコントローラーを鞄に入れて持ち歩くことが出来れば  外出することだって可能な代物だよ。  ちゃんと医療も進歩してるんだ。  先生は理佳ちゃんに、もっともっといろんな世界を知ってほしい。  そして託実の……息子の傍で、笑ってて欲しいんだ。  理佳ちゃんと出逢って、生意気なだけだった託実が、  少しずつ変わり始めてる。  後で、遠山さんと左近さんに理佳ちゃんを迎えに行って貰えるように  連絡しておくよ」
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