12.女心と初めての贈り物 

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そう言いながら、宗成先生はまた忙しそうに集中治療室を後にした。 先生の言葉は、ちゃんと私のことを考えてくれてる。 そんな風に少しだけ思えた。 午後から集中治療室に、かおりさんと左近さんが迎えに来てくれて 私はベットに寝かされたまま、エレベーターに乗って病室へと戻った。 やっぱりその時も、私の傍には両親の顔があった。 ベッドをいつもの場所に固定すると、 私は窓から外を見つめる。 葉が落ちた枝。 前に見た時は、そんな景色だけだったのに 少しずつ力強く、生命力に満ちた木々。 梅の花、もうすぐ咲きそうだね。 梅の花が咲いたら、 今度は桜。 桜の花が咲いて4月になったら、 最初の日は私の19歳の誕生日。 「ねぇ、お父さん……お母さん。  私、成人式迎えられるかな?」 ふとそんなことを呟いてた。 少しずつ諦めていたことが現実になっていくと、 人って本当に貪欲になってく。 「あぁ、理佳は成人式も迎えて、ちゃんと結婚式もあげるんだ。  理佳が元気になるなら、お父さんはどれだけでも働いて稼いでやる」 「うん……」 「そうよ。  理佳ちゃん、成人式に着る振り袖を作りましょう?  理佳ちゃんの晴れの日に相応しいように」 お父さんの言葉の後に、お母さんが言葉を続ける。 「いいの?」 「えぇ、いいわよ。  理佳ちゃんの成人の日には、その振り袖を着て一緒に出掛けましょう。  理佳ちゃんは、どんな振り袖がいい?」 お母さんはそう言って、私の浮腫みの残る手を両手で包み込んだ。
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