12.女心と初めての贈り物 

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「薫子先生……えっと、託実のお母さんのお姉さんが  Kiryuさんだったの」 「Kiryuって、あの綾音姫龍さん?  お父様とも一度、着物のデザインで仕事をしたことがある綾音さん?」 「そう……。  お祖父ちゃんが一緒に仕事をして、お祖母ちゃんの為に世界に一つしかない着物を作った。  あの……Kiryuさんなの。  この引き出しの中の食器も、姫龍さんがくれた……。  だから……着るなら、振り袖も姫龍さんのだと嬉しい」 「そうね……。  だったら、姫龍さんの振り袖を取り扱ってる呉服屋さんを探しましょう。  理佳ちゃんの願い通りに……。  理佳ちゃん……お父さんもお母さんも、理佳ちゃんのことでずっと我慢してきたの。  理佳ちゃんがお母さんたちに逢いたくないって言うから。  でももう、理佳ちゃんに遠慮はしないわよ。  私たちは、理佳ちゃんのお父さんとお母さんだもの。  百花のことも忘れたわけじゃないし、理佳ちゃんが百花に逢いたがってるのも  ちゃんとわかってるから。  少し休みなさい」 「うん……。    ねぇ……お願いがあるの。  病室に戻ってきたけど、今はまだ託実に逢いたくない。  逢いたいけど……逢いたくないの。  顔は黄疸で黄色くなってるし……体も浮腫んでる。  だから……」 「理佳ちゃんがそう言うなら、看護師さんに伝えておくわ。  明日もまた来るから……」 久しぶりに長い時間、 お父さんやお母さんと会話をしたように思えた時間だった。  その後も暫く眠りについて、起きたらベッドの中で出来ることだけを ゴソゴソと好きなようにする。 体力が低下しているから、時折……看護師さんや、お父さん・お母さんに 手伝って貰いながら足の曲げ伸ばしをして貰いながら託実と会わないままに時間を過ごした。  「理佳、久しぶり」 そう言って顔を出してきたのは、託実をめぐってお友達になった 堂本美加さん。 「託実が理佳に逢って貰えないって、そればっかり私と宮向井君に愚痴ってたけど  思ったより元気そうじゃない。  もっと寝たきりで、機械とか沢山繋がれて意識ないとこ想像してた」 そんな私でもびっくりするような言葉を第一声にはきながら、 私のベッドサイドの隣の椅子に腰掛けた。 「何してたの?」 手元を覗き込む堂崎さん。
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