2.新しい風

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託実が来てくれて嬉しいのに、 素直に喜ぶことが出来ない。 私の声に、無言のまま病室に入ってきて ベッドサイドに座ると、 鞄の中から教科書を取り出して、 静かに私の傍で、読み始める託実。 何処までも素直じゃない二人。 「託実……怒ってる?」 「別に。  ただ面白くないだけ」 面白くないだけって…… 言い方変えれば、怒ってると思うんだけど。 「隆雪くんから新曲のデーター貰ってただけ。  次のアレンジ用にね。  託実の前で宣言したでしょ。  隆雪くんの夢の手伝いをするって。  託実の方は?  楽器、決まったの?」 「まだ。  次の日曜に隆雪があわせたい奴が居るんだってさ」 「そう。  だったら、託実の最初の一歩はその後だね。  その時までに、私もちゃんとアレンジ上手く出来るように勉強するから」 それ以上、会話らしい会話も続けられず 私は五線譜を取り出して、隆雪君から預かったデーターを聞きながら 譜面に起こす作業をこなし、託実もまた勉強を続けてた。 そんな沈黙の後、再び病室の扉をノックしたのは一綺さん。 「こんばんは。  託実来てたんだ、どうしたの?  喧嘩でもした?」 「何でもねぇって、一綺兄さん。  それより、今日はなんで?」 「裕真が来る予定だったけど、  実習の後が長引いて、代理。  理佳ちゃん、調子はどう?  裕先輩が心配して、裕真に連絡してきてたみたい」 「裕先生が……。  大丈夫です。今日は少し熱が出てしまって大人しくしてますけど、  ピアノ触りたくてウズウズしてます。  隆雪君が、バンドで演奏する曲のイメージを持ってきてくれて  アレンジ頼まれてるんです」
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