13.卒業式とアイツの願い 

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2月。 アイツは集中治療室から病室に戻ってきたのに、 俺に会おうとはしなかった。 会える状況下にありながら、一方的に会うことを拒絶された現実は 俺をイライラさせて、隆雪や美加へと、愚痴らせていく。 そんな俺の愚痴を受け止めながら、 二人は俺の気が紛れるようにといろいろと配慮してくれた。 そんなアイツから、親父を通して俺宛にプレゼントが届いたのは 2月16日。 紙袋に詰め込まれたそれは、 アイツがデコレーションしたらしいチョコレートと、 マフラー。 チョコレートには、ゴメンネとアリガト。 突っ込みどころ満載の、よれよれの文字。 バレンタインには遅れたけど、 バレンタインのチョコのつもりかよ。 しかもゴメンネが、どんだけデカいんだよ。 謝るくらいなら、 とっとと俺を病室に入れろよっ!! 嬉しいのと苛立ちと、入り混じったような中で 頬張るアイツのチョコ。 だけど何言ったって、嬉しかったんだ……。 アイツが初めて、 俺の為に必死になって作ってくれたプレゼントだから。 何時もはあまり食べないチョコも、 アイツがプレゼントしてくれただけで、最後まで食べきろうと思える。 ぐちゃぐちゃに、心の中が整理できないままにチョコを食べ終えて キッチンでコーヒーを飲み干すと、俺はまた自分の部屋へと戻った。 そして黒いマフラーの隅っこには、 角角した字体でTAKUMIと刺繍された俺の名前。 その名前を指先で触れて、 アイツを思いながら、首にマフラーをグルグルと巻き付けた。 大丈夫。 会えなくても気持ちは繋がってる。 繋がってるなら……ちゃんとアイツは、 また俺をテリトリーに入れてくれる日も来る日だから。 だから今は、俺も出来ることをやる。 エスカレーター式の悧羅学院とはいえ、進級試験がないわけじゃない俺は 高等部に進級するための、試験勉強を必死にこなし、 アイツに逢えない時間を過ごし続けた。 3月14日、ホワイトデー。 その日は、無事に高等部へ進級が決まった俺の中等部卒業式。 今日、着納めとなる……ボウタイ。 来月からは、高等部の為、ボウタイは取り除かれて、ネクタイへと変わる制服。
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