13.卒業式とアイツの願い 

5/7
前へ
/167ページ
次へ
「どんな理佳だって、理佳だろ。  俺には必要だから」 アイツが凄く弱気になってる気がして、 溜まらなくなって伝えた。 「有難う」 小さな言葉で紡がれた五文字。 「おぉ。  ほらっ、プレゼントもとっとと見ろ」 そう言いながら、手にしていた袋を理佳へと押し付けた。 ピアノの鍵盤の模様が入った、 キルティングと言われる布で作った単純な鞄。 「凄くレアだぞ。  生まれて初めて作った鞄だからな。  形だけはいいだろう。  けど、なんだ……布はひっくり返すな。  縫い目は見なくていいから」 そう言うと、アイツは楽しそうにくすくす笑いながら 俺の前で、鞄を裏返す。 裏側なんて散々だ。 縫い目・切り目の印をつけた後に……ガタガタの縫い目。 そんな裏事情を見つめながら、アイツはクスクス笑いながら 俺の反応を見て楽しんでるみたいだった。 どんな形でもいい。 久しぶりに俺が理佳の笑顔を見れた瞬間だった。 「あっ……そのマフラー」 ふいに気が付いたように、理佳が呟いた。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加