16.想いを抱いて

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私にとっての今までは、 病気を発症してから、夜でしかなかった。 長い長い夜の時間でしかなかったけど、 託実と出逢って、その存在が少しずつ変わった。 夜を想えるようになったのは、 託実が傍に居てくれたから……。 だけど、そんな私の時間ももうすぐ……夜明けを告げる。 そんな私の寂しさと、託実への想いを この五線譜の中に書き込むこと。 託すこと……。 それだけが今の私の最優先にやるべきことになってた。 そんな五線譜が完成した翌日から、 また私の体調は悪化していく。 夜想曲の完成を神様が待ってくれていたみたいに……。 歯磨きをした時に出来た出血から、 感染症を起こしてしまった私は、その後はまた集中治療室で過ごすようになる。 高熱が続いて、何度も何度も肝臓や腎臓が悲鳴を上げた。 透析をして貰ったり、宗成先生たちの懸命な処置で その度に、時間を繋いで貰ってずっとずっと過ごし続けた。 面会に来るのは、やっぱり家族のみで 託実には会うことすら叶わない。 そして……私自身が一番恐れていた血栓。 血栓が脳梗塞を引き起こして…… 治療は無事に終わったけれど、私の体には麻痺が残って意思で動かせなくなった。 思う様に話せない私にも、 宗成先生や、左近さん、かおりさんたちは 優しく接してくれた。 ドンドン悪化していく体を、 自分でもはっきりと感じ取りながらも、 私の心は何故か、凄く穏やかだった。
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