17.夏が連れていく 

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「親父……」 「先生……」 俺が親父を呼んだころと、理佳の両親が先生と親父を呼んだのはほぼ同時頃。 被ってしまった俺たちは、 その後、妙に遠慮しあってその先の言葉が続けられなくなった。 一呼吸の間があって、理佳のお父さんがもう一度親父に話しかけた。 「先生、理佳の様子は?」 その問いかけに、親父は俺に部屋を出るように目で合図を送る。 渋々、外に出ようと歩き出した俺を 理佳のお父さんが「託実くん」と呼び止めた。 ゆっくりと振り返ると、理佳のお父さんは此処においでって言わんばかりに 自分の隣に指をさして、トントンと空【くう】を叩いた。 もう一度親父を見ると、親父もそこに行きなさいと言う様に 視線で合図を送ってくる。 そうやって同席を家族によって許された俺は、 理佳の今の状態を知ることになる。 歯磨き中に出血を起こした理佳は、 その時の傷で、感染症を引き起こしたのだと言う。 今は、感染症の悪化を防ぐための治療が、 奥の部屋で行われているということだった。 それと同時に、肝臓と腎臓の働きが凄く悪くなっていること。 辛うじて、透析処置をすると言う形で 腎臓の機能を維持している状態だと言うことも告げられた。 一日、一日。 アイツが生き続けられた日に、 アイツの病室のカレンダーに【有難う】と書き込みながら 過ごす毎日。 理佳は集中治療室から出られないまま、 季節は流れ続けた。 七月に入った頃には、 血栓から脳梗塞を引き起こして、アイツは再び危機的な状態を迎えた。 そんな長い夜も、親父たちの処置もあって 無事に乗り越えられたけど、アイツの体に出た代償は、体の麻痺と言語障害。 うまく動かせない体。 そして、上手く話せない声。
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