17.夏が連れていく 

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「託実も気が付いてると思う。  理佳ちゃんは今も頑張ってる。  だけど今日までも十分に頑張ってきたと思わないかい?  理佳ちゃんがずっと好きなのは託実の何?」 アイツが好きな俺……。 アイツは、俺のどこが好きなんだろ……って 正直、考えたことがなかった。 俺はアイツの笑顔が見たかった。 だから少しでも、アイツを笑わせたくて必死だった。 だけど……アイツは? 考えても答えは見つからない。 「託実……難しく考えなくてもいいと思うんだ。  託実は、理佳ちゃんにどうして欲しかった?」 「俺は……アイツに笑って欲しかった。  出逢ったばっかの頃は、アイツは口元は笑ってても  心から笑ってなかった気がしたから。  本当の笑顔を見たかった……」 本当の笑顔を見たくて…… クソガキだった俺は、ありのままの自然体で アイツに向き合っていった。 そしてアイツと付き合う様になって、 少しずつ背伸びを始めたけど、 やっぱり……背伸びにもすぐにボロが出てしまって 気が付いたら、クソガキに戻ってた。 「自然体?  俺……アイツを笑わせたかったけど、  何もしてない。  ただ普段の俺のままで過ごしてただけだ……」 俺……何も出来てねぇや。 アイツはいつも、 俺の為にいろいろとやってくれた気がするのに。 「託実……ありのままの、そのまま託実だったから  理佳ちゃんは心から笑えたんだよ。  その中に託実の本物の想いがみえたから  だから……その時が来るまで、  託実は託実らしく……ありのままで。  そうやって、理佳ちゃんを見送る心の準備も  ゆっくり始めないといけないよ」 一つずつ、丁寧に伝えていく 裕真兄さんの言葉。 凄く言いにくいことを話してくれてるのは 俺にもわかってる。 だから否定して暴れ出したい衝動を必死に抑えて 自分の中で消化したいと必死に対応を脳内で張り巡らせてる。 だけど憤りのない想いは、 俺自身の両手の拳をぶつけあうことと、 歯を力一杯噛みしめることが俺が出来た抵抗。
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