18.夜想曲 ~Last Note~ 

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いろいろと話したいことはあっても、 話すことは出来なくて、 ただ黙って一緒に過ごしただけの時間。 「理佳ちゃん、あの後……何か曲を作った?」 その問いかけに、 「ひ・き・だ・し」 っとだけ、ゆっくりと答える。 その声の後、裕先生はベッドサイドのキャビネットに片づけてある ファイルを取り出した。 ファイルの中には「夜想曲」と記した、 手書きの譜面が、茶色の封筒の中におさめられていて、 それ以外にも、ベッドの中で書き続けてきたオリジナルの楽譜が 姿を見せる。 裕先生は、その楽譜たちをファイルから抜き出して、 五線譜を辿っていく。 「理佳ちゃん、茶色の封筒の楽譜。  これは……託実の為に奏でる曲だよね」 その言葉に私は頷く。 茶封筒に入っている夜想曲の楽譜は、 私の命が終わった後、託実に渡してほしいと お父さんとお母さんに頼んだ、最期の手紙。 「夜想曲は手を付けない。  だけど、こっちのファイルは私が借りても構わないかな」 裕先生はそう言うと、 私に笑いかけてファイルを手に病室を出ていった。 その後も……何度か意識が引き込まれるような感覚が襲って、 現実なのか、夢なのかわからなくなった。 元弥くんと逢ったような気もするし…… 会わなかったような気もする……。 そんな時間を過ごしながら、再び目を開けると 一番近くに託実の顔があった。 「た・く・み……」 ゆっくりと名前を呼ぶと、 託実は私の手を強く握り返してくれた。 「理佳、寝過ぎよ。  私だっているんだから」 そんな風に切り出してくるのは、 堂崎さん。
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