最終章  旅立ちの日に   

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「なぁ、お前がモモ?」 突然声を掛けた俺に、 その女の子は一瞬驚いた表情を見せたけど、 すぐに頷いて黙り込んだ。 「理佳が凄くお前に逢いたがってた。  なんで逢ってやらなかったんだよ」 責めたいわけでも、傷つけたいわけでもないのに ふいに飛び出した言葉は、そんなキツイ一言。 「お姉ちゃんには逢えないの。  お姉ちゃんには逢わないって決めたの。  最初はずっと寂しかった。  私の傍には、お父さんもお母さんも居なくて私はずっと一人で  お姉ちゃんに全部取られたって思ってた。  だけど……それでも理佳は、私のお姉ちゃんだもの。  私だって何度も、病院には来てた。  でも逢えなかったの。  その場所で、お姉ちゃんがどんなふうに過ごしてたか知ったから。  わかったから。  だからね……お姉ちゃんに長く生きて欲しくて、  私は神様にお願いしたの。  百は、お父さんもお母さんも諦めるから、  お姉ちゃんにあげるから、お姉ちゃんを助けてって。  お姉ちゃんが元気になるなら、百はお姉ちゃんにも会わないからって。  大切なもの全部で、神様にお願いしたの。    そんな私の気も知らないで、勝手なこと言わないでよっ!」 女の子の悲痛な声が、一階のエントランスに響いて その子は突然、崩れ落ちるように倒れた。 慌ててソイツを抱きかかえて、理佳の病室の方までかけ戻ると 抱えた女の子を、近くに居た看護師さんに預ける。
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