3.相棒探しと負けず嫌い

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「えっと、これが私が預かった隆雪君が作曲したデーターなの」 そう言って理佳が再生ボタンを押すと、 ギターの音色の伴奏に合わせて、隆雪の鼻歌が聴こえてきた。 幼馴染って言っても…… アイツがこうやって曲まで作ろうとしてたなんて、 これを聴かされるまで何も知らなかった。 「次は私が参考に起こした原曲」 一つ一つ説明しながら、理佳は再生ボタンを押していく。 隆雪がギターと鼻歌で演奏していたその曲が、 今度はピアノの演奏で奏でられてた。 鼻歌の音まで、楽譜にピアノで再現されてた。 「ここからがアレンジなの。  サビのフレーズを頭に持ってきてバージョンと、  原曲通りに前奏を始めながら、後半から転調させていくバージョン。  託実はどっちがいいと思ったか聴かせて?」 そう言いながら理佳は二曲続けて再生させた。 一曲目は、右手のメロディーがサビのラインを歌ってるけど 多分、ボーカルは音のない状態のアカペラで歌いだすのか? その後、徐々に重なりはじめる伴奏。 二曲目は、前奏から入って第一フレーズ、第二フレーズと隆雪の鼻歌同様に流れていくメロディ。 後半のサビの後から、少しずつ動き始めて、転調していく。 どっちも綺麗だけど、俺にはどっちも物足りなかった。 「理佳、悪い……。  俺はどっちも選べない。  どっちも良い面と悪い面があって、どっちかを選ぶなんて出来ねぇよ。  一曲目は、まだ歌詞とかわかんねぇけどボーカルが歌ってそうなイメージが湧いた。  でも最後まで、なんか単調なんだ。  二曲目は、なんか最初は退屈なんだけど後半の、理佳が凝りはじめた頃から続きが気になって仕方なかった。  これが実際の生音になったらどんだけ楽しいだろうってさ。  両方のいいところ、合体して編曲すれば?  そしたら俺、お前がアレンジした曲ベースで頑張ってやるよ」 口をついて出た言葉に、思わず俺自身の口元を隠して舌打ちをする。 目の前の理佳は、キョトンと目を丸くして俺の方を見つめてた。 「託実……今、ベースするって言った?」 「言った。  隆雪に誘われたんだよ。  んでこの間、SHADEって奴の演奏を聴いて  ベースに決めた。  だからとっとと、曲でもなんでも作りやがれ。  俺が、アイツと理佳の曲演奏してやる」 勢いというか……次から次、必死になればなるほど口をついて出る言葉。
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