3.相棒探しと負けず嫌い

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「さて、託実くん。  じゃあ、実際のフロアーに行って気になるベースを教えてくれるかな?」 そう言って俺を案内する、中山さん。 「託実、選んでるか?」 そんな俺の傍に、いつの間にか来てた隆雪が顔を出す。 確か親父が声かけたんだったか……。 隆雪だけだと思って振り返った後ろには、 この間あったばかりの、怜さんと、羚が姿を見せてた。 「佐喜嶋くんと遊佐くんのお知り合いでしたか?」 中山さんはそう言って、二人にも話しかける。 「託実、遊佐って言うのは羚のことだよ」 隆雪はそっと耳元で教えてくれた。 「あぁそうだ。  遊佐君、良かったら託実くんに君のベースを見せて貰えないかな?  羚のベースは、アイバニーズ製 AFR204なんだ」 中山さんが頼むと、彼は自分の相棒をゆっくりとケースから差し出した。 「羚、あそこのアンプに繋いで少し聴かせてくれないか?」 中山さんの声に、彼は黙々と作業を続けて 弦を指先で爪弾き始めた。 時に弦の上を指先が踊るように、時に弦の上を掌で叩くように演奏される その音色に、俺はまた惹き込まれていった。 だけど……このベースを 俺が演奏してるところはちょっと想像つかなかった。 アイツが一通り演奏を終えた後、 俺は自分の探したい相棒を言葉で伝えてみようと思った。 「あのさ、ベース。  弾きにくくても別にいいんだ。  太い厚みのある音ってないのかな?  唸るって言うのか……」 そう言った俺の言葉に、その場にいた隆雪たちはフロアーを探しに行く。 そう言って手にしてきたベースを、 アンプに繋いで、さっきと同じように羚が奏でてくれた。 さっき、羚が演奏していたのとは違って、 ゴリゴリって言うのか、唸るような太い低音が響いた……。 その音色が、俺にとって心地よかった。 「託実、ギブソンのサンダーバードって言われるベースだよ」 隆雪がそう教えてくれた。
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