4.練習と曲作り~裕先生の寄越した人~

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10時半。 いつものように始まった、冴香先生のピアノレッスン。 二台のピアノのためのソナタ。 「こんにちは。理佳ちゃん、今日もレッスン始めましょうか?  まずは先生と、一緒に弾いてみましょう。  どれくらいの速度にしようかしら?  理佳ちゃん、基本速度を決めて貰えるかしら」 冴香先生の声が私の元に届いて、 私はA4の用紙に32頁ぎっしりと綴られている楽譜を譜面台めくりやすいようにセットして 冒頭の16小節くらいまでを演奏してみた。 「理佳ちゃん、久しぶりのレッスンだから、後少しテンポをスローに」 指示されるままに、速度を落とすと、 私が演奏するリズムに向こう側で手を叩きながらテンポを刻む。 「はいっ、OK。理佳ちゃん、今先生が叩いてるテンポを意識して……。  さぁ、行くわよ。1・2・3、ハイっ」 冴香先生の声で第一音を弾き始める。 でも相手の顔を見えない今の練習方法では、 合わせづらくて、ちょっとグタグタな演奏になってしまう。 「さっ、理佳ちゃん。  相手がいることをもっと意識して。  はい、最初からもう一度。もう少し左手を軽快に」 30分と言う練習時間はあまりにも短すぎて、 思う様に合わせることが出来ないまま時間だけが無情にも過ぎていった。 「理佳ちゃん、今月の末に一度日本に帰国するのよ。  その時に、理佳ちゃんに時間を見つけて会いに行くわ。  それまでは、なかなか思う練習は出来ないかもしれないけど  理佳ちゃんには一緒に演奏するパートナーがいることを今回は忘れないで」 「はいっ。  今度はもう少しうまく出来るように、練習しておきます。  宗成先生、練習時間増やしてくれないかなー」 思わず零れる本音。 練習量が絶対的に足りてない。 人って欲張り……。 次から次へと、やりたいこと、望みが増えていく現実。
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