4.練習と曲作り~裕先生の寄越した人~

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「さて、ここまで説明したのが基本編かしら?  でも貴方が任された編曲までは、これで堅固なものになったのではなくて?  この後は、演奏者のセンスが問題。  バンド用の各パートの伴奏作りに関するコツと、フレーズ集、ワンポイントアドバイスみたいなものを  まとめてあるから、また目を通すといいわ」 そう言って、手提げのファイルいっぱいに資料のつまったクリアケースを私の前に置いた。 「後は、少し楽しみましょうか?  初めての外出なのでしょ?宗成伯父様に聞いたもの。  お医者様がいないと、なかなか外出させて貰えないわよね。  さっき、ずっと練習していたのはモーツァルトの2台のピアノのためのソナタだったわよね」 思わぬ言葉に頷くと、 彼女はすぐに用意されていた二台のピアノの蓋を開けてフェルトを折りたたんだ。 「楽譜は暗譜していて?」 「だいたいは」 「なら始めましょう?  伊集院先生、満永さんについて頂けるかしら?」 「えぇ、構いませんよ。さぁ、始めましょう」 思わぬ展開についていけないまま、 その夢のような時間に流される。 「満永さん、二台ピアノが横に並べられていますね。  お互いの呼吸を感じながら、時折、隣同士でアイコンタクトを取りながら  タイミングを合図で話し合って、演奏してみてください」 伊集院さんがそう言って、 私のピアノの傍の椅子に腰を下ろすと、 鍵盤に静かに手を添えて、ゆっくりと隣に顔を向けた。 視線があった後、一呼吸を置いて、演奏を始める。
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