第二楽章 「祈りの夏 煌めく季節」 1.隆雪と怜さん 

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「15分ほどしかゆっくり出来ないけど、  大樹も同席でいいかい?」 「俺は構いません。  では、お茶の支度をしてきますので  デューティーは、いつものサロンに移動をお願いします」 一礼をしてその場を後にすると、 サロンと併設している給湯室で、紅茶を準備する。 寮生活をしていた時は、寮内で行われていた朝のコミュニケーション行事。 中等部になり、自宅からの通学が可能になった後は、 このサロンが朝の、HBWのコミュニケーションの一環を担う空間になっていた。 それぞれのジュニアが、デューティーやグランデューティーのお茶を準備して、 それぞれの場所へと移動していく。 俺も流石に慣れた、 お茶をティーカップに注いでデューティーたちの待つテーブルへと置いた。 「託実とこうやって過ごすのは久しぶりだね」 「はい。  部活を退部した今、デューティーにお茶を入れるのはこの場所でしか機会が得られなくなりました」 「そうだね。  でも陸上部をやめても、託実が俺のジュニアであることには変わりない。  体育祭はどうするんだ?」 「今回は体育祭も棄権する予定です。  普通に日常生活は許可されても、まだスポーツまでは許可が出てないんで  当面はリハビリに専念します」 実際、走ることは出来ないんだから間違ったことはいってない。 「そう。  それで託実は、今も医者になる気はあるの?」 「ですね……。陸上辞めたら、俺……勉強以外、取り柄ない気がしてきました。  成績は幸い落としてないから、両親にも医学部狙ってもいいって言われて」 「何かわからないことろがあったら、すぐに訪ねておいで」 「有難うごさいます」 お辞儀をした頃には、朝のSHR前の予鈴が校舎いっぱいに鳴り響く。 「ごちそうさま、託実」 デューティーはそう言うと、大樹先輩を連れてサロンを後にした。 そのまま洗い物を済ませて、俺は教室まで移動する。 教室前には、すでに隆雪が顔を覗かせていた。
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