7.学院祭準備期間

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「何、笑ってんだよ。理佳。  お前も食う?  親父がいんだし、少しくらい許可出るだろ」 アイツの笑顔に思わず見惚れてしまった俺自身を隠すように 素直じゃない俺は言葉を続ける。 アイツは親父の顔を覗き込みながら、 伺いを立てる。 親父は理佳の隣。 理佳は親父に意識を向けてる。 隆雪と位置を変われば、理佳からは死角になるが 親父とは視線が合うはず。 そう思って隆雪の肩をトントンと叩いてアイツを俺の逆サイドに移動させると 後ろ側から回り込んで、親父の方に向かって、指を一本人差し指を立てて見せる。 その後、祈る様に手を合わせる俺。 ……頼む、一切れでいいからアイツと食わせて……。 面と向かって口に出して親父に頼んだら、 アイツは、理佳は臍を曲げて食べなくなってしまう。 だけど……何となくだけど、アイツも食べたいと望んでる気がして。 俺が退院した今、アイツはまた あの病室で一人で、味気ないご飯を食べてるはずだから。 出逢ったときみたいに、義務的に……。 どんなに美味しいものでも、栄養価の高いものでも 『美味しい』って思って食べなきゃ、 意味がないって、幼等部の頃に読んだ絵本には書いてた。 だから……俺は目の前の命あるものを糧にしてでも俺自身が生きる為に頂く そのエネルギーを無駄にしたくなくて、俺が楽しめる美味しいって思えるスタイルで食べたいって 思ったんだ。 だから……アイツを考えると、 多分、ここに居る親父や隆雪を巻き込んで、ワイワイと食べるのが楽しいんだろうなって。 親父は俺の意を組んでくれたのか、 理佳に向かって頷くと、理佳は嬉しそうに微笑む。
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