第二楽章 「祈りの夏 煌めく季節」 1.隆雪と怜さん 

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「託実、遅いぞ」 「悪い、デューティーとティータイムしてた。   部活なくなったら、この時間しか会えなくてさ」 「まぁな、少しは一般生徒の気持ちわかったか?  デューティは近いようで遠い、遠いようで近い存在なんだ」 「まぁ、何となくここに来てその意味がわかった気がしたよ。  それより託実、次の日曜、顔貸してくんない?  この際だから、もう一度言う。  俺は音楽で食べれるようになりたい。  けど、一人でバンドは出来ない。  託実と一緒にやりたいって思ってんだ。  託実は一緒にやってくれるって言った。  けどさ、理佳ちゃんが居たからこそのOKだったと思うんだ。  そうじゃなくて、心から託実が音楽をやりたいって思って貰えたら嬉しい。  それをさ、俺……この間、昂燿校でバンドやってるSHADEの怜さんに相談したんだ。  今、俺も時々面倒見て貰ってるからさ。  それで、練習を見においでってさ次の日曜、スタジオに招待してくれたんだ」 はっきり言って、今の俺にはSHADEがどっちを向いているのかわかんねぇ。 マジで、俺は走ることしか興味がなかったのだと思い知らされる。 けど……俺が、理佳の世界を広げようとしたみたいに、 隆雪が今の俺の世界を広げようとしてくれてるなら、 それに乗っかってみるのかもいいかもしれない。 そんな風にも思えた。 日曜までは何時ものと同じように過ごして、 その日を迎えた。 駅で待ち合わせてして向かったスタジオ。 隆雪は、いつものようにギターを背中に担いで手慣れた様子で階段を降りていく。 「おはようございます。  怜さん、琢也さん、EIJIさん、今日は有難うございます」 真っ先に挨拶をする隆雪に、俺も慌ててお辞儀した。 スタジオにいるのは、後三人か……。 「隆雪、そっちが託実くんかな?」 「はいっ。裕先輩の……」 裕兄さん……また、その偉大な名前かよ。 悧羅は、裕真兄さんと一綺兄さん。 昂燿は、裕兄さん……そうだよな。 「俺は佐喜嶋怜(さきじま りょう)。  んで、こっちが俺のバンドメンバーの琢也とEIJI。  もう一人が、あそこでベースを磨いてる羚。羚は中等部一年生。  悧羅校だから託実くんの後輩になるかな。  羚、挨拶しなさい」 怜さんに言われた後、邪魔くさそうに立ち上がったその少年は 俺を見て、無言でお辞儀した。
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