8.学院祭当日 

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「理佳さん、久しぶりだね。  手の状態はどうだい?  裕と一緒に演奏するようだね。  飛び入りで、私との共演はどうかな?  今日から三日間は、君は私の教え子でもあるからね」 そう言いながら伊集院先生は微笑んだ。 「演奏って言っても満足のいけるものが出来るかどうかはわかりません。  だけど今日の為に、オリジナルで一曲だけ作ってきたんです。  モモの……私の大切な妹の絵画が、夏休みに病院の廊下の壁に飾られてて  それで作ったオリジナルなんです。  私の中では、曲のタイトルは「モモ」なんですけど、流石にそれをタイトルにすることも出来なくて  今は『希望の翼』って言う形でしかないんですけど……」 「希望の翼……。妹さんの為に作った曲なら、演奏したいよね。  特に君の想いをそのモモさんにも届けたい。  楽譜はある?」 「そう言うと、私よりも先に裕先生がその譜面を手渡す」 「理佳ちゃん、どうせなら皆で演奏しよう。  その方がきっと楽しくなるよ。  宝珠、高臣、DTVTの招集を。  理佳ちゃんのソロの時間、合同演奏に入れるように至急譜面をまわして。  指揮は瀧川に」 あっと言う間に話が大事に広がっていく。 朝からびっくりすることだらけで、こんなメンバーと行動をともにしながら 私の学院祭は幕を開けた。 裕先生はこの学校にとっては、凄く凄く偉い人なのか、擦れ違うたびに膝を折りながら 挨拶をしていく生徒たち。 そんな人に車椅子を押して貰う私は、注目のまとで……それでも、 その人たちが興味本位に私をはやし立てることはない。 「どうぞごゆるりと、学院祭を……」 次々にそんな声をかけられて、過ぎていく生徒たち。 キョトンとしてたら、背後から「理佳ー」っと私を呼ぶ聞きなれた声が聴こえた。 「何不思議そうな顔してんだよ」 「おはよう、託実」 「おはよう。  裕兄さん、少しだけ理佳連れてっていいか?  今から俺のクラスまで。  女子と合同で、お茶してるんたよなー」 そう言いながら託実は、 裕先生と入れ替わって私の車椅子を押してくれる。
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