9.12月の行事 

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久しぶりに病室に戻ってきた理佳は、 今もまだ眠っているみたいだった。 会わなかった時間の間に、 理佳の身に何があったのかわかんないけど、 少し顔が黄色っぽく映った。 黄色? 黄疸が出てる?   読んだ本の中に出てきた【黄疸】の言葉と肝機能障害の文字が脳裏に浮かんだ。 その説明の上にあった本の文字は、心不全……だったか。 読んでるようで一言一句間違えないと言い切れるほど暗記してるわけでもなく、 素人知識は危うい。 今度……親父にアイツの病気のことを教えて貰おう。 守秘義務があるって言うなら、アイツの今の病状じゃなくていい。 一般的な知識としての、理佳の病気のこと。 そんなことを思いながら、いつもの様にアイツのベッドの隣に椅子を置いて 勉強を始めた。 17時が過ぎて、晩御飯の準備が始まる。 アイツの担当ナースの遠山さんが、 晩御飯の入ったトレーを運んで病室に顔を出した。 「あらっ、託実くん。  理佳ちゃんのお見舞い?」 「理佳、何時戻ってきたんですか?」 「今日の15時頃だったかしら?  危機的状況からは落ち着いたから、理佳ちゃんの希望で病室に」 「アイツ、起きたら話せるんですか?」 「えぇ。まだ無理はさせてはダメよ。  病室に戻ってきたって言っても、ピアノを弾きに行くことはまだ暫く出来ない。  だから託実くん、こうやって学校が終わったら顔を出してあげね」 遠山さんとそんな会話をしてると、 ベッドの中がモゾモゾと動く。 「理佳ちゃん、理佳ちゃん、起きれそう?  晩御飯の時間なの。  胃腸粘膜の浮腫みが少し酷いから、いつもよりも気持ち悪いかも知れない。  だけど、一口でも二口でも言いの。  自分の口から食べる努力をしてほしいの」    遠山さんはそう言うと、理佳の体をゆっくりと起こす。 ベッドの頭元をあげて、体を預けながら起き上った理佳は、 部屋にぶら下がったドレスを見て、驚いた顔を見せた。 「理佳……」 アイツはベッドから起き上がっただけなのに、 乱れた呼吸を必死に整えながら、ドレスから俺に視線をうつす。
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